建築から学ぶこと

2012/07/11

No. 333

そこには楽しみもあり、苦労もある

アートプロジェクトは興味深い。アートと社会の関係を探るものがあり、まちを新たな視点で切り取るものがある。アーティスト自らが触媒となることもある。まちにアートが立ち現われるとき、淡々としていたまちはいきいきとした表情を取り戻す。住み手も訪れる人も新たな出会いに沸き立っている。もちろん悪いわけはないが、ひとときの経験であってよいかどうか。特殊な瞬間には偶然性の面白さで記憶されるだろうが、関与するひとびとの精神も技量も底から揺り動かしはしない。

その意味で、アートプロジェクトは確実に継続してゆくことに意義と成果がある。運営ノウハウも蓄積されてゆくだろう。チャールズ・ハンディが捉えた非営利組織の類型には<クラブカルチャー(強いリーダーの個性しだい)>・<ロールカルチャー(役割が階層化)>・<タスクカルチャー(プロジェクト単位で編成)>・<パーソンカルチャー(専門スキルが明瞭な集団)>があるという(帆足亜紀さんの引用による)。プロジェクトには明瞭なミッションが不可欠だが、当事者がどのような類型の集団であるかを認識することも、ものごとを責任感とともに続行するうえで重要である。

現実にある組織はいずれかの傾向を帯びていることになるだろう。建築をつくる組織にせよ、発注者組織にせよ、いろいろな性格がまじりあうなかでの個性がある。おそらく、アートプロジェクトのような自発性を重んじる活動は、組織類型をあきらかにして取り組むほうが効率良いかもしれない。活動に軽いかかわりしか持たない人も引きこむオープンさを保つにはシンプルなほうがいいからだ。建築の専門家がアートプロジェクトに提供できる知恵があるとしたら、表現と環境とのあいだを取り持つこと/変えてみせることについての経験だろうか。そしてぜひ、Sense of Placeを発見する瞬間を楽しみたい。

佐野吉彦

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