建築から学ぶこと

2015/05/27

No. 475

文化をつなぎあわせる作家たち

乗り換えの待ち時間を利用して、ロサンジェルスカウンティ・ミュージアム(LACMA)を訪ねた。レンツォ・ピアーノによる大規模増築棟などを含み、のびやかに広がる美術館で、豊富な日本コレクションでも有名である。1988年に竣工したブルース・ガフ設計による日本美術棟では、根付のコレクションが興味深い。根付は印籠などを和装の帯に留めつけるための実用品で、18世紀に進化し、明治に入ると輸出用としても製作された。人・動物などの細工をひとつひとつ眺めていて飽きない。LACMAに来たらこれを見なければ、と思ったのは昨年、五嶋みどりがサントリーホールでのリサイタルで弾いた「NETSUKE」(2011)が印象に残ったからだった。作曲者シテファン・ハートキは、まさにこのLACMAの根付から曲を発想した。それぞれが短い6楽章のヴァイオリンの切れ味は、眼前の華やかな造形に通じている。異なる文化が、目利き腕利きの手によって見事に邂逅している。

その2日前、アトランタのハイ・ミュージアムで、ウィフレド・ラム(1902-82)の作品展「Imaging New Worlds」を見た。キューバで生まれ、スペインとフランスでの長い滞在を経てキューバに戻ってゆく人生のなかで、シュールレアリズムや魔術的リアリズムを素直なくらいに影響を受けている。旅する彼の人生自体が植民地主義への批評とも言うべきかもしれない。そういう、世界の複合的な側面と、ラムへのオマージュ作品を現役の2人の作家の作品展が組み合わさっていることで、worldは複数になっているのだ。ここでも異なる文化が見事に出会っている姿が確認できる。なおこの作品展は、リチャード・マイヤーの設計の本棟に増築したスペースでの展示だったが、これもまたしてもレンツォ・ピアーノによる設計であった。

佐野吉彦

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