建築から学ぶこと

2020/03/11

No. 712

門司港の静かな春

おおよそ一年前、門司港駅舎(二代目)は大改修を終え、耐震化とともに1914年竣工当初の秀麗な姿が蘇った。設計は鉄道院九州鉄道管理局工務課で、現役駅舎建築として東京駅と並んで重要文化財である。原型の木造駅舎に、長い間いろいろな手が加わってきたが、すっきりと整理がなされた。ここは鹿児島本線の始発駅なので、何線もあるプラットホームの端部に伽藍のように建つありようは、ヨーロッパ大都市の駅舎を想わせる風格がある。
海に程近い門司港駅は、そもそも海運との結節点である。門司港は1916年には出入港船舶数では横浜や神戸を抜いて一位に躍り出たという。台湾からはバナナが運ばれて駅で積み替えられたこともあり、駅前広場には「バナナの叩き売り発祥の地」の案内板がある。その賑わいは、1942年に国鉄が関門トンネル経由となってから衰えるものの、近年は海峡をはさむ下関とともに、観光のためのエリア整備が功を奏してきた。新幹線や関釜フェリー経由の国内外の訪問者が、集客・周遊ポイントとなったかつての倉庫群「門司港レトロ」にあふれている。
この駅は、同じく鉄道連絡船が廃止になった青森・函館・高松などの駅と同様に、埠頭と直接つながる通路を失ったが、その空地は新たな都市インフラに提供されることになった。つまり、駅とその周辺は、1891年の開業以来、つねに交易の劇的変化に影響を受けてきたというわけである。
さて、先日は工事中に訪ねて以来の門司港駅舎訪問だった。感染症が広がったこの2月・3月はさすがに人出が少なく、やはり交易の急転回が影を落としている。静かな早春もいいけれど、名建築に早く賑わいが戻ってきてほしいものだ。

佐野吉彦

門司港駅の早春

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