建築から学ぶこと

2011/10/19

No. 298

運営することの、泣き笑い。

設計する組織には、安定した力を維持する組織力と、個々の能力がドライブする変革力の両面が必要だ。そのバランスづくりはそう簡単ではない。長期にわたって組織が社会的責任を果たしてゆくには、そのテーマを達成してゆくことになる。この連載ではあまり触れていないことだが、安井建築設計事務所が安井武雄から女婿の佐野正一に引き継がれ、さらに私がそれを受け継ぐという、それぞれのテークオーバーゾーン(リレーゾーン)において、かなりのエネルギーが用いられてきた。そのゾーンが外部から見てある程度の滑らかさを持つことも重要である。でも、バランスの取りかたは局面によって違うのだ。そのような試行錯誤の局面を手さぐりで抜けてきた私は、ほかの組織における同様の問題についても大いに関心を持ちつづけることになった。

UIA2011東京大会では国内的には運営部会長という立場にあった私は、国際的にはCommissary Generalという正式呼称を与えられていた。兵站将校を意味するのだが、その本当の使命は、準備プロセスにおけるUIA本部との細部にわたる調整、3月の震災直後の事態処理、そして最後の3か月の国内調整のなかで実感してゆく。ぎりぎりのところで粘り切る役割が、私が向きあうべきことなのか。大会本番では表に出ないポジションであることを誇りとしながらも、時に嫌われる役割を担うのは感情的に辛いときもあった。しかしながら、このプロセスのなかで私の最も重要な交渉相手がUIA事務総長Jordi Farrando(ジョルディ・ファランド)であったのは幸いであった。バルセロナの建築家で、当地で開催された1996年の第19回UIA大会で私と同じ立場にあった彼は、私の苦労を理解しながらも細かい要望を述べ、叱咤激励し続けた。そうして最終日、彼が私をねぎらってくれたことですべては報われた。

結局、私はここでも組織論について考察を深めることになった。エネルギーを使わない運営なんてないのだ。こういう場面にあって、同じ立場を分かちあえる先達は、最大のMentor(賢明な助言者)となりうる。疲れがとれた私は硬い表情を解いて、日常の仕事の苦労にも戻ってきている。今後も、要領よくなんてことは考えないで進む。

佐野吉彦

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