建築から学ぶこと

2020/05/27

No. 722

「出口」にあって考える

日本国内の非常事態宣言が、ようやくすべての地域で解除された。こわばった空気は幾分和らぐだろうが、この時点で、3月あたりからの社会の変化を丁寧に検証しておく必要がある。まず、前向きなものは、これまでも触れてきた<リモートでの働き方の進展>である。ある程度のリモート業務がデジタル技術で可能になり、時差通勤も普及した。移動に制約がかかって始まった、WEB会議や講演(WEBINAR)も活気づき、諸方面でオンライン手続きにも違和感がなくなっている。WEBを活用した現況は今後も働き方の多様化も後押しし、さらに異なる場所にいる人材と知恵の結び付けを促すと思われる。その流れの中で、<オンライン>と<出向く機会>とをいかに賢く組み合わせるかが問われるだろう。それに応じて起こる建築計画の変化の中では、交通の結節点の姿や役割がどう変わってゆくかに興味と期待を感じている。

一方、このコラムで幾度か指摘してきたように、じつは日本社会のIT実装は遅れている。そして、その使い方に熟達しているとも言えない。ネット上できちんとした議論とビジネスを進めるには、もっと情報の容量もスピードも高めたいし、また、論点の集約方法を磨く必要がある。ネット上の議論は、往々にして同質の仲間の予定調和になったり、直接民主主義的な意見のぶつけあいに陥ったりする。対面による緊張感ある議論のレベルにはまだ達していないのではないか。雑談を楽しむオンライン飲み会で盛り上がる時期はすでに終わっているのだから、ここから先の我々は、オンラインのさらに善き使い手になるにはどうしたよいかを考えるべきだろう。

最後に記しておきたいのは、この数か月に世界で起こった人権に関わりかねない問題である。感染がピークの時期にはこのあたりへの注目が弱くなるものだが、多文化共生への配慮、監視と個人のプライバシーとの矛盾、休校下での教育機会の不均等など、未整理の事項はいろいろある。それらの検証のなかで、建築計画がフォローできる役割が必ずあると私は感じている。

佐野吉彦

「受付カウンターの感染予防:安井建築設計事務所」

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