建築から学ぶこと

2018/12/05

No. 650

それが、大阪にふさわしいありかた:蕪と佃煮と万博

大阪の伝統野菜である「天王寺蕪(かぶ)」が近年、復活再生してきている。一説によると1756年にこの種を故郷に持ち帰った人が育てたのが信州の「野沢菜」であるらしい。野沢での蕪栽培は葉を食べるほうにシフトし、知名度は全国に広まった。その後2016年には野沢温泉村の企画で、大阪の四天王寺に「野沢菜伝来記念碑」が建立されるなど、離れた両拠点の交流も深まってきた。佃煮についても、距離を越えた縁という面では共通するだろうか。淀川河口の佃村の漁師が江戸に移住したことで、佃村オリジナル料理の佃煮が当地でしっかり根を下ろした。長い歳月、豊かな食材と交通の便に恵まれた大阪は、その成果を広く伝播する発信基地なのである。
その大阪で、2025年の万博開催が決定した。時系列としては20年のオリンピック/パラリンピックを引き継ぐもので、グローバルな関心を惹きつけるという点でも好ましい流れにある。ところで世界順位をみると、国際会議の開催件数ランキング(2017)では日本は7位であり、都市別では東京が18位、京都は50位である。だが大阪は156位(前年は100位)に留まる(政府観光局データ)。こうなると大阪は戦略的に自らの優位性を高める必要があるのは明らかで、万博はそれを後押しする機会となる。大阪万博の主軸である健康や生命科学を際立たせつつ、大阪にある近代建築や土木遺産も都市の魅力として大いに売り出したい(この点は「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」を通していい土壌づくりができている)。
おそらく、大阪らしいありかたとは、天王寺蕪や佃煮の経験にあるように、自らの成果や特性を広汎に発信、また情報を受信し、さらなる価値を生み出すハブになることではないか。結果として国際会議が増えれば、その点での都市の本来の特徴を示す指標となる。イヴェントやインバウンドを想定したインフラ整備や設備投資だけでは一過性のものに終わってしまう。ハードの充実が、万博あるいは大阪の最終目的ではないことは誰もがわかっているはずで、大阪に宿るポテンシャルに期待するものである。

佐野吉彦

これからの日本と大阪のイヴェント。その中にある、安井建築設計事務所100周年(2024)。

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。