2018/11/21
No. 648
ミュージカル<ウェストサイド・ストーリー>の最初の構想は1940年代に生まれた。当時のニューヨークにあった宗教間対立を題材にした物語は、最終的に1950年代の移民同士のせめぎあいを背景に置くことになった。前面にあるのは若い男女の出会いで、それはやがて悲劇へと突き進んでゆく。ブロードウェイに登場したのは1957年で、1961年に映画化されたことで世界中に知られる名作に結実した。歌詞はソンドハイム(1930-)、弾みのある音楽はバーンスタイン(1918-90)。両者にとっても最も著名な作品に違いない。脇役たちにも割り当てられた、多彩な歌と豊かなハーモニーはすばらしいものがある。
よく知られているように、ミュージカルに登場するポーランド系(ジェッツ)とプエルトリコ系(シャークス)の対立軸は、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」(1595頃)におけるヴェローナの名家確執の構図を翻案している。どちらも都市ならではの物語であるが、興味深いのは大道具と小道具で、邸宅の大広間の場面は体育館のダンスパーティでの出会いに置き換えられ、お互いの心を探りあうバルコニーは、ビルの非常階段の踊り場に変わっている。それらを通じて愛を語りあうだけでなく、対立を乗り越えて明日への希望を歌うメッセージを含ませている。
ところで、トニーがマリアに会いにゆく鉄骨の非常階段は、アメリカでは地上に着地していないので、昇ろうとすると骨が折れる。この道具立てに困難をものともしない意思をにじませているが、映画「プリティー・ウーマン」の最後の場面でもリチャード・ギアが非常階段を昇りにかかる。ややコミカルながら、これはウェストサイド・ストーリーからの引用かもしれない。