建築から学ぶこと

2018/03/07

No. 613

お雛さま、街に顔出す

春が近づくと、仕舞っていたお雛さまがそろりと運び出される。女の子の幸せを願う、日本の素敵な習慣である。豪奢な雛壇からシンプルな一対のものまで、バリエーションはさまざま。小ぶりなお内裏さまとご伴侶はとても感じがいい。いずれも、それぞれの家に受け継がれたポジティブなメッセージがこめられている。個人宅には雛壇を並べる場所が足りない現実はあるけれど、この慣わしはまだまだ健在であってほしいものである。
さて普通は、雛壇を比較して鑑賞する機会はあまりない。そうした折、所用で静岡県の袋井駅に降り立ったときに、当地で「可睡斎ひなまつり」開催中というのを見つけた。残念ながらそこに立ち寄る時間がなかったが、1200体の雛人形が展示されるスケールの大きな祭事である。そのかわりに、同時開催中の「まちじゅうひなまつりプロジェクト」を訪ねることにした。期間中、袋井の駅前通りをはじめとする街の店舗や公共施設など100箇所の店先に雛壇が置かれる。幾軒かを訪ね歩いてみると、それぞれの雛壇にある磁力を感じ取ることができた。このように、雛壇をつなぎ、線をつくり、心を結ぶアイディアはなかなか卓抜である。私はこれまで意識してこなかったが、いまいろいろな街で公開されたお雛さまをめぐり歩く試みが活発化しているらしい。ちなみに、袋井は東海道の宿場町である。
今年も大阪の船場地区各所で開催された「船場のおひなまつり」もそのひとつ。さすがに船場の商家が受け継いだ雛壇はどれも立派なものである。最上段に屋根がかかる新井家の雛壇は個性的だが、そのような「お道具」とともにあった暮らしのぬくもりが伝わる。毎年秋に開催の「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」が近代建築の足跡に焦点を当てる試みなら、これはもっと穏やかで和やかな企画だと言えるだろう。毎年少しずつ開催規模が広がってきている。

佐野吉彦

船場の新井家のひなまつり

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