2007/10/03
No. 101
職業人として成長するために獲得すべき能力について、考えてみたい。いくつかのカテゴリーが設定できるが、ひとつは「リーダーとしての能力」。公私を問わず、人はどこかの場面でリーダーの役割を務めねばならない。自分の考えを的確に示し、合意形成を図りながら、ものごとを実現に導くにはある程度の知恵と修練が要る。実は、そういう経験があると、リーダーのもとで働くときに役に立つ。それによって組織や運動体、あるいは地域が適切に動くのだ。リーダーシップとは何かを体で覚えることは誰にも必要なことである。
もうひとつは「セクレタリーの能力」。秘書、幹事という呼び名はずばりセクレタリーだが、日本政府の官房長官やアメリカ合衆国の国務長官もセクレタリーと呼ばれるものだ。この役柄は、リーダーの方針を計画に沿って間違いなく遂行するプロであり、かけがえのない存在である。また、仕えるリーダーに異を唱える立場ではない。たとえば大臣が首相とのあいだで激しい議論を交わしあったとしても、それを官房長官はしてはいけない。このセクレタリーの能力の修練は、同じような意味でリーダーに立つ者にとっても大切だ。それは着実な姿勢を持ったリーダーシップを育てるのだ。
これらに「創造性」「倫理性」を加えると、ひとまず能力は4つとなるだろう。この2つが建築をつくるプロセスにおいて重視されるのは当然としても、先の2つについて言及されることは少ない。建築で仕事をしようとする者なら、かたちあるものを粘り強く実現しようとする姿勢と、冷静沈着に事態を取り仕切る視点とを、いろいろな機会を通じて鍛えておく必要はある。それは、オンザジョブのほかに、たとえば地域づくりに建築の専門家としてかかわる経験なども役に立つだろう。ここでは逃げる余地も余裕もないからだ。あるいは、余暇における活動などでも学びの機会はあるかもしれない。ただその場合でも、「人と人との関係のなかで自らのプロフェッションを絶えず意識」する経験であれば、職業人としての成長におおいに寄与するものである。さて、日本の政治家は、そうした地道な修練を重ねて偉くなっているのだろうか。そうであれば良いのだけれど。