建築から学ぶこと

2023/10/18

No. 889

結ぶ場所、ブリュッセル

久しぶりにパリから長距離特急に乗る機会があり、パリ北駅からブリュッセルまで、1時間半の特急<タリス>の旅をした。専用線を使うのであっという間の到着である。着いたのは南駅で、幾分よそよそしい空気がある。それよりも歴史的街区に近接する中央駅の姿やコンコース空間の方が、よほど風格が優っている。そう、それはヴィクトール・オルタ(1861-1947)の最後の作品(死後の1952年開業)なのである。彼が残したアール・ヌーヴォーの秀逸な住宅シリーズはこのまちに集中し、そのうち4件が世界遺産に指定されている。大型作品である中央駅についても、優雅にカーブする正面壁などにオルタらしさがあふれている。
オルタには若き日にパリ在住経験があった。後年、パリに多くの作品があるエトワール・ギマール(1867-1942)とは別の場所で、鉄とガラスからともにアール・ヌーヴォーのスタイルを導き出した。つまり、同じ空気を吸った同世代である。彼らの拠点間は、その当時も鉄道で結ばれていたということになる。それを介してお互いの動静も伝わっていただろう。第879回で取り上げたワインづくりがそうであったように、パリを起点とする鉄道が果たした役割は大きい。ワインの場合は鉄道によって現品輸送されるだけでなく、生産地情報と消費地情報がフィードバックしあう情報ネットワークが生まれた。今やワインも評判も世界を飛び交うようになっているのだが。
ところで私がブリュッセルに降り立った10月11日、当地のNATO本部をウクライナのゼレンスキー大統領が訪れていた。ちなみに、その3日前にはハマスによるイスラエル砲撃が起こっている。このまちにはEUの本部もあるように、地続きに国家が隣り合い、地中海をはさんで中東やアフリカと向き合う、欧州の要の位置にある。

佐野吉彦

凛とした姿のブリュッセル中央駅

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