建築から学ぶこと

2019/04/24

No. 669

キャンディリスのいる風景

建築家ジョルジュ・キャンディリス(1913-95)が自らの足跡を語った著書「生活を築く」(原著1977、創樹社から訳書2019)を読む。彼の事務所で働いた経験のある岩村和夫さんが翻訳し、丁寧に注釈や地図を加えてわかりやすい仕上がりになっている。キャンディリスはアゼルバイジャン(当時は帝政ロシア)のバクーで生まれ、アテネ理工科大学で建築を修めた人である。ル・コルビジェ(1887-1965)のもとでユニテ・ダビタシオンを担当した後独立し、社会はいかにあるべきかの視点に基いて、都市計画やキャンパス計画などの成果を実らせた。チャレンジと足跡が世界各地に及ぶのは、キャンディリスの言葉によれば「真の問題があるところに身を置く」心構えがあるからだ。
そこにある固有の精神とはいったいどこに由来するのか。実はその人生のなかに、厳しい従軍経験があり、多くの素晴らしい出会いがあり、それらを介して思想の体幹が鍛えられている。読み進めるうちに、一人の建築家の人格にある高潔さと強靭さ、先入見のない平等な視線と優しさには襟を正したくなる。
そのようなわけで、この本は重みと快さの両方の手ごたえを残すものだ。また同時に、近代ヨーロッパの歴史を読み解く重要なサブテクストだとも言える。近代建築運動CIAMの生成と衰退をめぐる背景もよく理解できる。そして、一連の流れの中にいる登場人物の何と魅力的なことか。この時代、多様な出自を持った人が移り住み、邂逅して新たな価値をもたらし、時代を大きく変えている。これぞヨーロッパ。キャンディリスの畏友、作曲家クセナキス(1922-2001、ギリシャに生まれ、ル・コルビジェのもとで働いた建築家でもあった。)もそうだったし、ル・コルビジェ自身もそのカテゴリーに含めることができるだろう。次々登場する「名優たち」と「名品」への尊敬の念が沸く本である。

佐野吉彦

キャンディリスとともにある世界

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