2013/03/05
No. 365
東日本大震災から2年。それは、被災地に留まらず、地域にある知的生産の編集や見直しが進んできた点で意義ある2年間だったかもしれない。さまざまな価値が、これまで気づかなかったつながりや新しい掛け合わせの中で生み出されてきている。
たとえば<東京大学社会科学研究所・希望学プロジェクト>は、震災前から、斜陽傾向にあった釜石市で「社会における希望の変遷」をテーマに掲げて聞きとり調査を進めていた。釜石はその後さらに厳しい現実に直面したなか、今後どのように希望を持ち続けるのか。街を再建してゆくためには、良質な視点でのじっくりとしたフィールドワークが引き続き基盤を成すであろう。地道なアプローチながら、ここに外部の方法論が加わっていたことは新たな可能性を導く。
また、いわき市では、地域に軸足を置く歴史学や生物学など幅広い分野の研究者が「地域研究」を積みあげてきている。同じく地道な<いわき地域学會>というこの活動体を評価すべきなのは、個々の知識を束ねたデータベースが形成されること以上に、地域を支える人的ネットワークが育っていることではないか。ここではむしろ、内発的な努力が課題を抽出し、地域を引っ張る役割を果たす視点がある。それは災害時・平時を問わず、行動を起こす上で有効で堅固なつながりとなる。
基本的に、地域にある課題を解決するためには、現実や歴史的事情の丁寧な掘り下げと、そこに変化を起こす行動の両面が必要である。前者を担うのが研究者なら、どのように変えるかをデザインしたり、資金を確保し実行組織をつくったりするのは、それぞれ実務に長けた者が受け持つのが正しい。ひとりがすべてを取り仕切ることも可能だが、課題を克服するための精度を上げるなら、上手に役割分担するほうが賢い。それは専門家を育てるいいチャンスにもなるはずだ。
(本稿を記すにあたり、公益財団法人サントリー文化財団に感謝する)