2022/04/13
No. 815
先般、ある企業の周年記念の場に立ち会った。こういう機会はトップが社内外に明瞭なメッセージを出すもので、しばしば新規事業の発表をそこに重ねあわせたりする。この企業の場合は少し工夫があって、様々な世代や属性の社員が順番に登壇し、担当する事業の新機軸を語るセクションに多くの時間を割いており、具体的な作戦がうまく伝わるようにしていた。はじめに環境に優しいロジスティックス戦略、健康を意識した商品づくりが披露される。また多様な働き方に対応したルールづくりと認証取得・実施促進に触れ、国ごとに細かく切り分けた国際展開について説明があって話を終えた。それぞれが面白かったのは、現代の企業が気にかけている方角が網羅できていたからだろう。新機軸をいちいち事業所拡大や生産施設開設といったハード戦略に帰着させてはいないが、経営インフラ構築には結びつけている。
ここ10年の日本は東日本大震災はじめ災害との向き合いがあり、さらにSDGsが常識として定着し、COVID-19の経験があって、企業価値が数値を積み上げることだけで決まる時代ではなくなった。さらに、この企業の場合もそうだが、伝える力よりも、商品開発や市場開拓の課程に起こる「沈黙」・「停滞」のなかから有効な「声」を聴きとる力が重要になってきている。消費者の方もそう期待する。そのためには企業の中で多様な属性が活動しなければ、深い聴き取りができないということになる。
企業の歩みをたどるなら、第一次世界大戦後に勃興したケースなら100年、第二次世界大戦後から積み上げた勢力なら70年ほどになる。その歳月で一方向に成功曲線が伸びるところなど稀で、むしろ後塵を拝するような経験から、新たな知恵を学び育んできたと言えるだろう。飽きもせず歴史のステップを踏むことが、結果的に新たな力を蓄えている力になっているのである。