建築から学ぶこと

2018/10/10

No. 642

ノーベル賞は、よりよい未来への道標

2018年のノーベル賞受賞者が決定した。生理学・医学賞では、日本から本庶祐教授が、ジェームズ・アリソン教授(米)とともに選出された。二人ともがんの免疫療法の基礎にかかわる発見で功績がある。免疫はがんを攻撃する役割があるが、がん細胞は免疫細胞の表面にあるPD-1の働きを抑止してこれに抵抗する動きを始める。本庶教授は一連のメカニズムを明らかにし、この動きを取り除く新薬の開発に導いた。アリソン教授は同様のCTLA分子を研究対象としており、両教授とも粘り強さと社会に貢献する姿勢が輝いている。
ここ数年は、日本から生理学・医学賞受賞が続いた。このことについて、江崎玲於奈教授(1973年にノーベル物理学賞)は「選ぶ人たちの視野に日本人が入ってきたことがあるのではないか。日本人が良い仕事をしているとわかるようになってきた。(論文引用回数のような)科学技術の定量的な評価が導入され、(師弟関係などの)人間関係ではなく、仕事を定量的に評価できるようになった」と述べている(引用:日経2018.10.2)。
私は2015年に、その本庶教授と岸本忠三教授による講演を聞いたことがあり、私なりに理解した記録を、本連載第503回「研究室委でのチャレンジとドラマ」に掲載した。講演の締めくくりで岸本教授は、明治以降の日本が大学の基礎研究を重視したことが日本を発展させ、ノーベル賞受賞者を輩出する成果を生んだと述べている。役に立つ研究であったというのは、長年取り組んだ結果であって、役に立つことを目指してきたわけではない、とも付け加えた。本庶教授は、特にライフサイエンスでは最初に成果が見通しにくいので、いろいろな可能性を試すことが非常に重要で、大学はすぐに結果を求めるのではなく、長期的視点による投資、政府や企業による基礎研究へのバックアップがほしいと述べていた。大事な話である。ノーベル賞だけでなく、すべての学術の追究は次につながる大きなうねりであってほしい。

 

付記 2018年のノーベル平和賞は女性の基本的人権において、重要な問題提起をしたと言える。政治家の顕彰以上に重みがあり、賞の価値を高めたのではないか。

佐野吉彦

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