建築から学ぶこと

2022/10/26

No. 841

バルト三国との縁

エストニア・ラトヴィア・リトアニアは、まとめてバルト三国と呼称されている。小国ながらそれぞれの存在感が明らかな国々で、日本ともいろいろな縁で結ばれている。戦前のリトアニアの在カウナス領事館の領事代理だった杉原千畝がユダヤ人の命を救った逸話は両国で良く知られているほか、リトアニアと日本の両建築家協会は定常的な交流機会を持っている。先ごろそのカウナスで、両国の建築家の作品展を含む建築イベント「EAST – EAST5」が開催された。前回2012年の開催の折は私がディレクションに関わった縁もあって、近しさを感じる国である。

エストニアはIT先進国として知られ、デジタルは生活の基盤であり、さらに起業の基盤となっている。この点では日本が学ぶべきところが多い。最近の建築では田根剛さんが設計したエストニア国立博物館が雄弁で印象的である。また、この国出身の指揮者パーヴォ・ヤルヴィはNHK交響楽団の常任指揮者を務めていた。その父である指揮者ネーメ・ヤルヴィは、ソ連時代のある時期に日本に身を寄せていたことがあり、その頃に東京理科大学管弦楽団の指導をしていた経験がある。私が在籍したアマチュアオケである。

それらと比べると、私とラトヴィアとの縁は薄かったが、先日聴いたラトヴィア放送合唱団の演奏は素晴らしかった。イギリス・ルネッサンスからバッハ・ブルックナーをバランスの良い響きで包み込み、リゲティの作品を精緻に彫琢して見せ、自国の作曲家のヴァスクス(1946 -)の曲で締めくくる。まさにヨーロッパの音楽史をカバーするプログラム。プレーヤー個人の自発性が傑出していて、この国の文化の奥行きの深さに触れた感じである。

これらの国は、かつてはドイツの影響を受けた時代があり、またロシアとの関係はずっと微妙な状況にある。地に足が着いたバルト三国の今後に注目してゆきたい。

佐野吉彦

秋の収穫。

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