建築から学ぶこと

2012/04/11

No. 321

出会えば起こる前向きな変化

年度の変わり目の3月・4月は、何かとあいさつを務める機会が増える。たとえば、若い社会人に向けて述べた今年のメッセージは「社会が面白いのは、いろいろな出会いがきっかけとなって活動が広がったり、能力が高まったりするところ。それは日々起こりうるものだから、プロフェッショナル人生を真に豊かにするチャンスを逃さないようにしてほしい」というものだった。それは人の成長について論じたものだったが、社会自体も同じことが言えるだろう。社会とは頑健な文化基盤ではなく、つねに文化間の接触によって変化を続けることによって命脈が保たれる、生命体というべきものだからである。

先日、久しぶりに三陸を訪ねる機会があった。被災地は災害直後の混乱の時期を経て瓦礫処理がひとまず進んだものの、まだ復興への道の端緒に達したばかりで、この先は長い。しかし、この時点までにじつに多くのボランティアや専門家がこの地と関わりを持ったことの蓄積は、やがて持続的な力になるのではないか。彼らはここで何かを見出したはずだが、被災地の人々も同様に多くの縁を結べたことは、災厄のなかにある「可能性」と言えるだろう。ここで、それぞれが属する文化が出会ったことは大きい。

震災がきっかけとなった異なる価値観の共存は、この地の再生を支える長期的信頼関係として活用したいものだ。ある都市や集落における困難を支援してきた関係は、そのエリアの次の展開にとって益となる知恵を蓄えてきている。地域再生や産業振興には、広域に共通する一般論よりも、個別に紡いだ交わりに学ぶことこそ有効である。望んで起こった災害では決してないけれども、震災復興は前向きな社会変革の実験の機会となるであろう。その成りゆきを凝視しながら、内向き気味の日本についても、あらたな国際的な関係生成に賭けてみていいのではないか。出会うことが生むさまざまは、いつ、どの局面においても新たな価値を生み出すタネになるのだから。

佐野吉彦

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