建築から学ぶこと

2008/06/04

No. 134

多様さを楽しむ

世界各国の建築家協会の会長が年に一度議論を交わす機会が、AIA(アメリカ建築家協会)大会のプログラムに設けられている。International Presidents’ Forumという会議である。ここでは中央の円卓でやや生硬気味の意見表明(議論が白熱するところまでは時間が足りない)が交わされているが、取り巻いて座っているわれわれarchitectたちは何度も参加してお互い顔見知り。このやりとりを結構楽しく聞きながら、ひそひそ・ごにょごにょと感想を述べあう。今年のボストンでの会議は、Diversityというのが予め用意されたテーマのひとつ。このDiversityは「多様性」と訳してもいいのだが、おそらく「多様さ」とするのが適当であろう。AIA会長であるPurnell氏がこのテーマへの意見開陳を求めると、それぞれ、自国の発注方式やマーケットの多様さの披瀝、多様な世代を意識した設計の重要さの主張などと、百花繚乱となる。とても「多様性」という穏便な表現ではまとめ切れない。

そのなかで印象に残った発言が、議論をしているメンバーだけで世界の多様さを代表できるのか?という指摘であった。中央テーブルの22名のうち、学生代表がひとりおり、女性は5人。人種もある程度広がりがあるかなと私には感じられたのだが、十分ではないようだ。少なくとも世代幅については偏っている。閉じていては建築にかかわる正確な実情を反映することはできないという趣旨の発言であった。ちなみに、AIAは1970年代の初めごろは女性会員入会を厭う空気があったけれども、いまは女性が14%を構成しているという(設計事務所経営幹部の16%は女性)*。実はこれではまだ社会と同等の基盤にはなっていない。北欧はもっと進んでいるのだ。

われわれが向きあう社会は多様な個性と声であふれている。それを受けとめて弾力感ある解答を導くためにはどうしたらよいのか。建築の実務もヴィジョンも、多様さを持った顔ぶれによって課題を抽出するのが良い。多様さに由来する情報は活かしがいがある。おそらくそれは、束ねるよりもうまく包みこむものだろう。多様さが「同じテーブルや部屋」にいることは大事である。

* 2008.1現在

佐野吉彦

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