2007/01/24
No. 67
福岡は、訪れるたびに興味が湧く場所だ。住んだ経験のない私も居心地の良さを感じる。口は悪いが、さして整った都市景観とは思えない。でも、心地よいのはなぜだろう。正確な印象を言えば、福岡はどこも昼の風景より夜のそれのほうがずっと個性的。すなわち、人が集まってできる景観がある。人の匂いが漂っているがゆえの魅力かも知れない。私が、父方の祖父が長崎県の島原に生まれたので九州には多少縁があります、と口にすると、そこからぐっと親しみを感じてもらえたりする。このまちは人と人との距離が割合、縮めやすい印象がある。どちらかというと、磁力に引っ張られる感じではあるけれど。
また、福岡が興味深いのは、端々に感じる「男気」であろうか。主要道路である渡辺通りは、呉服商・渡辺與八郎がここを走っていた路面電車の設置に力のあったことにちなみ、名付けられたもの。近年のホークスタウンやキャナルシティなどは、他の都市ではバブルの遺産になりかねないところだが、創業した中内功や榎本一彦らの男気が相変わらずしっかりと横たわっている感がある。ちなみに、この地のプロ野球にも、稲尾和久や三原脩の西鉄から孫正義や王貞治のソフトバンクまで、男気の系譜が底流にあるように思われる。
もうひとつ、福岡はアジアのハブ都市を指向していることもあり、異なる知恵を受容することには柔軟だと思う。福岡アジア美術館の明瞭なコンセプトにもその姿勢は反響している。以上記してきた、私が福岡に抱くさまざまな印象は、この地に育ち、ニューヨークでも活躍した建築家・松岡恭子さんの、たとえば鹿児島・天文館のプロジェクトや、新北九州空港連絡橋の成果にも共通するものがある。前者には現実にある制約を正統的なアプローチで乗り越える姿勢があり、後者には建築と土木の境目を巧みにさばく見事な手腕が見られる。チャーミングな松岡さんの、とても男っぷりの良い仕事だ。