建築から学ぶこと

2022/11/16

No. 844

共同作業の実るところ

大宮喜文・東京理科大学教授が「建築火災安全設計の合理化に資する火災拡大性状予測手法に関する一連の研究」で、2021年の日本建築学会賞(論文)を受賞した。(旧)建設省建築研究所での追究、この分野における研究と教育の拠点である同学での研究蓄積などを基盤とした功績である。先日開催の、その概要を語る受賞記念講演では、地道な研究が法令の改正や設計プロセス改善につながった経緯が紹介された。それは結果として建築界において設計の自由度を高めることに大いに寄与している。
この日は、もう一人の受賞を記念する講演とセットであった。それは、第17回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の金獅子賞(国別参加部門)を受賞した建築家・寺本健一氏の講演である。彼はドバイに拠点を置いて実作を手掛ける途上で、指名コンペで当選してビエンナーレでのUAE館展示のキュレーションに携わった。彼は環境問題というインターナショナルなテーマとUAEにおけるローカルな課題とを掛け合わせようとする。専門家をうまく巻き込みながら建築的な解を導き、これからの社会を鮮やかに切り出してみせた。現在は外総の勝浦に拠点を移し、その問題意識をさらに深く追究している。
二人が目指すテーマは異なるが、社会に対し覚悟を持って向きあうところは共通する。また、思いの強さがある一方で、異分野との共同作業を厭うことはない。かくて、さまざまな知的生産は共同作業から生み出されるのである。こののびやかな姿勢を育てたのが東京理科大学であったことは、喜ばしい限りである。種明かしをすれば(関係者以外には理解しにくいが)、同学には彼らの卒業した理工学部建築学科と、私が卒業した工学部建築学科があり、それぞれ別の同窓会が、両学科+理工学研究科国際火災科学専攻と連携して企画したのがこの講演会であった。

佐野吉彦

講演後のトーク:左から山名・兼松・今本・大宮の各教授、寺本さん

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