建築から学ぶこと

2022/01/05

No. 801

文理両道であることの意義

暮れになると、一年の読書記録を見返してみて、ベストワンを選ぶ楽しみがある。私の中では2冊が競りあい、第757回でも紹介した「教養の近代測地学―メフィストのマントをひろげて」(石原あえか著:法政大学出版局、2020)を選んでみた。著者は経歴に<ゲーテと近代自然科学を主要研究テーマとする>とあるように、一見つながりが見えにくいところに線を繋げる研究者で、近代史・近代文学史と技術史をみごとにからみあわせる腕前を持っている。もう1冊は「精霊に捕まって倒れる」(アン・ファディマン著:みすず書房、2021)で、こちらは第584回で短く言及した。米国の医療現場に起こった多文化共生の課題を、文化人類学的の視座に立って精確に捉えながら、医療従事者と、モン族移民の患者との間に交わる線をクローズアップしてみせる。希望を感じさせる書である、

この2冊を選んだあと、年末年始に出会った「ドードーをめぐる堂々めぐり」(川端裕人著:岩波書店、2021)も面白かった。これは17世紀に絶滅した鳥をめぐる複眼的な論考で、生物学の視点に、近代世界史にある飛躍と失敗の事実を重ね合わせている。世界はその先に自然を保護する視点を生んだのである。このような文理の両刀は、対象に奥行きを与えてくれる。

我々が生きる時代は、年が変わっても、環境危機もエネルギーをめぐる問題も新型コロナウイルスも、技術の課題かつ社会の課題であることに変わりがない。こうした局面を上手に乗り越えるためには、広い視野の獲得や、異分野の連携がますます有効になるだろう。ひとつひとつの学術の掘り下げも重要だが、「かけあわせる読み」も社会のサバイバルには欠かせないと思う。それは政治においても経営においても、建築計画においても同様である。

佐野吉彦

文と理が交じる京の風景:白川の清流は疎水がつくり、愛らしいモッコ橋は小さな近代産業遺産。

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