建築から学ぶこと

2013/10/02

No. 394

建築が伝える、言葉以上に大切なメッセージ

ある短いレクチュアで、建築におけるシンメトリー(左右対称)について解説をした。それに先立って、建築設計とは<建築空間を機能ごとに分割(役割分担)し、主たる機能と支える機能をいかに明瞭に整理する作業>であるとし、<材料を合理的に選択・整理して、安全性と持続性、快適性を実現するプロセス>であると前置きをしておいた。

シンメトリーに計画をまとめることは建築のプロトタイプ(原型)と言っていいだろう。まずそこには構造形式の合理性がある。さらに、人を集中させる効果、特定方向への誘導効果がある。宗教建築・競技場といった建築分類では、何も説明を加えなくても、中心線が最も重要な意味を持つことを会衆・観衆に語りかける。さらにそれを効果的にするために装飾の抑制・選択がおこなわれる。そこには過剰な言葉を充たす必要はないのだ。他の建築分類においても、建築の外観と内部空間の中にシンメトリーを対比的に付置しながら、人に効果的なメッセージを伝えようとしている。

さて、最近読んだ「丘の上の修道院 ル・コルビジェ最後の風景」(范毅舜、六耀社2013)は、ラ・トゥーレットの修道院(1957-60)をめぐる論考であり、写真家である著者による瑞々しいショットが多く収められている。2度の大戦に向きあったカトリック世界(それは、カトリックを大改革した第2バチカン公会議(1963-)の前夜でもある)にあって、アラン・クチュリエ神父は、優れた現代芸術家の知恵と奉仕を教会建設に加えることを構想し、アッシーの教会(1950)でまずそのきっかけをつかんだ。そしてル・コルビジェには無神論的傾向があるにも関わらず、新しい修道院の設計では敢然と指名したことが紹介されている。

カトリックの信者である著者は「神は独特の方法で自身の存在を説明し、聖職者と芸術家はその才能によって自己の気付きを表現する」と記している。魅力ある建築のなかに宿っている繊細な感情を静かに読み解きながら、聖職者と建築家が異なる方法で究め問いかけながら、ともに同じ道へと歩み出していった不思議さを感じたい。そう著者は語っているようである。建築設計と建築計画の歴史には、そのような使命感の積み重ねがある。

佐野吉彦

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