建築から学ぶこと

2016/11/02

No. 546

継承をめぐる問題

水都・大阪は、いくつもの河が合流して、さらに枝分かれしてゆく場所だ。そこでの相互の影響が、独自の関西文化を生み出してきた。それは清流というよりも、重たい水のつながりあうところというべきか。先月末、JIA建築家大会2016大阪で、私は【偉大な先輩建築家に学ぶ】というシンポジウム(NPO建築文化継承機構[JIA-KIT建築アーカイヴス]主催)に出演する機会を得た。建築家の「影」を後継者が語る、というもので、大阪の坂倉事務所の文化を西澤文隆さんとともにつくった太田隆信さん、父・石井修と同じく建築家を歩む石井良平さん、村野藤吾のもとで実務を力強く支えた鈴木志朗さん。そして私を含めた4人がパネラーを務めた。私は祖父・安井武雄と父・佐野正一が育てた事務所を受け継いだ立場であり、おのおの異なる形で志を受け継いだ。が、このような立ち位置から先代を解き明かすのは物凄くエネルギーを要する。「影」を捕まえるのはなかなか難しいのである。
先代が経験した、自らのスタイル確定への呻吟のようなものは、後継者のテーマにそのまま受け渡されはしないだろう。個人が抱える問題意識はひとりひとり異なるのである。たとえば佐野正一が悩んだ「機能主義とローカリズムとが折りあう着地点」については、自らも語っているけれど、第三者がデザイン論で整理分析することも可能である。だが、後継者である私は、その着地点が建築主との関係にどういう影響を及ぼしたかを読んでいる。そのような時間差と、すでにできあがっている建築をふまえつつ新たな展開を見出してゆくのはまことに重いチャレンジであるはずで、この日の「当事者たち」はさらっとは語っていない。私を含めてそれぞれが克明なメモを携えて臨んでいたが、このようなことを簡単にまとめてたまるものかという覚悟があったと思う。でも、継承の問題はどの世代の建築家にもついてまわる話であり、少なくとも私は、時間をかけてでも一般論を導き出す責任があると感じている。

佐野吉彦

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