建築から学ぶこと

2013/10/30

No. 398

こどもの領分、おとなの了見

ここにある4145点の応募作品。それが今年度の、主として幼稚園/保育園世代の子供たちの絵画の数である。そのなかから、特賞・特選といったランキングをつけてゆくのはなかなか骨が折れるが、20年にわたって毎年作業をきちんと遂行しているのが、大阪府建築士事務所協会が運営する「児童画コンクール」である。同協会の会長である私は、審査に加わりながら表彰状授与を務める。同じくこの協会が運営する「なにわ建築フェスタ2013」(10月26・27日)の会場である「イオンモール鶴見緑地」での表彰式には受賞児童の父兄が集い、幼稚園や絵画教室で教える先生たちがライバル心とともに集結する。その「アツい」人々を前にして、私は審査で感じたことをいくつか述べた。

まず、幼稚園に入りたての児童の絵にある傾向のこと。この年齢はあまり絵を書いた経験がない年齢なので、一律に先生が描き方の手ほどきをするという「フォーマット作成」がなされる。ただ、そのなかに明らかに新しい体験・発見をした喜びを感じた児童がいる。そういう子が次に絵を描くチャンスでは、その子の関心や興味を引きだす指導をすることが重要だ。

その時期を経て、少し年齢が上になると、さほど手をかけなくとも絵の巧さが際立つ子どもが現れる。この場合は、彼/彼女が絵を描くことをいつまでも楽しみながら成長できるよう、さらに表現力を活かせる道に進めるよう、うまく導いてほしいと思う。その一方、絵の巧さよりも一生懸命描いているようすで感動するものがある。ここでは、絵を描く作業を通じて、努力・集中することの大切さを学んでいる可能性がある。いいだろう、それも人生にとって重要な知恵にはちがいない。

絵を描くことの指導を通じて、児童ひとりひとりのなかにどのような個性やこだわりがあるかをていねいに発見することは何よりも重要だ。個性が花開き、個性がエネルギーを発揮する社会やコミュニティというものは、幼年期に絵を描く作業のなかに始まりがあるような気がする。そこに注意を払うことは、次の時代を魅力的にするための重要なミッションではないか。

佐野吉彦

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