建築から学ぶこと

2011/08/24

No. 291

善きサマリア人法

大阪をベースに活動する建築4団体(大阪府建築士会・大阪府建築士事務所協会・JIA近畿支部・日本建築協会)は、全国に先駆けるかたちで、大阪府と大阪市と個別に<災害時の応急危険度判定に必要な専門家の派遣に関する協定>を結んだ。震災前から協議を始めていたこの連携は、日常における団体間・官民のあいだの信頼関係を基盤としている。災害は当地での災害に留まらない。お互いが協力しあおうという姿勢があれば、いざというときに単純な足し算以上の力が発揮できるものである。

さて、聖書のなかに「善きサマリア人」というくだりがある。ユダヤ人が追いはぎにあって道端に倒れているところを、同胞であるユダヤ人は見て見ぬふりをした(それどころか祭司などは道の向こう側を歩いた。そこからpass by on the other sideという成句が生まれている)。そこへ手を差し伸べたのは日頃折りあいの悪いはずのサマリア人であったという話である。聖書はここで真の隣人とは誰かを説くのだが、米国にはその逸話に基づく「善きサマリア人法」(Good Samaritan Law)という行動則がうまれた。災害時などの治療における判断に対し、訴えを起こされないよう従事者を守るという趣旨である(なお、行政がとるべき適切な行動についてはStafford Actとして定められている)。

日本では同じように法制化するかどうかの議論が交わされているが、米国では建築における応急判断にも適用がなされる動きが進んでいる(適用している州は半分までは達していないが)。大事なことは、法律のかたちをまとうかどうかよりも、日常的に社会に互助の精神が染みとおっているか、柔軟な対応ができるプロフェッショナルであるかである。もちろん緊急時だけの協力であっては物足りない。これからの社会像を描くために長期的協力ができるかどうかも忘れてはならないことである。

佐野吉彦

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