建築から学ぶこと

2006/03/08

No. 24

館山の隠し味

南房総の館山で「館山若潮マラソン」に出場した。私は年3-4回ほど、フルマラソンを走る習慣があるのだが、このレースは2回目。コースは館山駅に近い公園から内海沿いに走りはじめ、岬を回り込んで外海沿いを走り、後半は内陸部の峠道を越えてスタート地点に戻るというもので、風景の変化があって楽しい。シーズンは真冬ながら、東京よりずっと温暖。のどかな空気に満ちたレースであるが、幾度もあるアップダウンをうまく「こなす」作戦が必要だ。さて、こうしたレースは道路閉鎖や通行規制を伴うので、制限時間(5時間)が課せられたり、関連自治体・地域団体の協力を求める観点から、コースは市域を跨いだり、わざわざ市域一杯に設定されたりする(車を順次逃がす目的もある)。26回目である若潮マラソンは、そうした思惑を感じさせないほど、運営は慣れており、後味の良いレースと言える。沿道の声援からも、地域に根ざしたイベントであることが感じられる。

館山はさまざまなドラマを育てるところ。内海越しに東京を見つめていた作家・中沢けいはこの地に育った人。穏やかで細やかな描写が印象深い。青木繁が滞在し、「海の幸」を描いたのは布良(めら)。今は館山市に属しているが、外海の荒々しいエネルギーに触発される場所である。ほかにも避暑地・南房総の明るい日差しは多くの名作を生んだが、コースはこの布良近くもかすめる。一方で、東京湾をガードする位置にある館山は、軍事の要衝だった過去がある。意図的ではないと思うが、コースはかつての海軍基地(現自衛隊駐屯地。それは米軍の最初の上陸地でもあった)、特攻隊基地、軍事演習をおこなった浜辺や山あいを走り、そうした歴史をなぞっている。マラソンは、単純なスポーツにとどまらず、風景のバリエーションを体感する機会と私は考えるのだが、走りながらいろいろな物語を読み解くのも興味深いことだ。観光的魅力に富むものとして、マラソンにはおおいなる可能性があるのではないか。

続いてその後、篠山マラソンを走った。いつも1万人近くが走るレースなので、篠山の盆地は大いに活気づく。ここでは、スポーツが地域を動かす力を持つことがわかる。

佐野吉彦

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