建築から学ぶこと

2012/03/14

No. 317

災害に向きあうために、これから (下)

東日本大震災の直後にも書いたように、事態の全貌が定かでない時期、私はとりあえず政府見解を信じることと決めた。そのころUIA2011東京大会(世界建築会議)の準備にかかわり、頻繁に海外との連絡を取っていたから、国と民間が異なる情報発信をしてはいけないだろう、と考えたからだ。個々の事象にはあとで唖然とした点もあるけれど、私の持つ視点は3月12日あたりから変えていない。国難であるなら、ここはやはり国益を地道に考えなければならないだろう。しかし、権威に対する不信がこの災害あたりから世の中に広がっただけでなく、政論の亀裂についてはそれを現実的に埋める努力さえしなくなってしまった。残念ながらこの1年はそういう空気のなかに包まれていた。

さて、前号で紹介した「防災フォーラム」は、技術をめぐっての興味深い議論が交わされた。技術は、人の生活感覚とは離れたところで進展しているのではないか。別の言い方をすれば、想像力や危機管理意識というものは技術の飛躍に比べると停滞しているのではないか。河田惠昭(防災、危機管理)・喜多俊之(プロダクトデザイン)・坂茂(建築家)・中村桂子(生命科学)各氏の指摘は、技術に向きあうことが多い顔ぶれであるだけに、地に足のついた知見を提示していたように思った。

この企画は建築4団体(*)の共同で実現した。すなわち、いずれも技術の進歩が不要とは決して考えない立場にある。おそらく、これら議論の行く末にある重要なこととは、技術がより精緻にバランスよく高められることと、それに見あう人間の能力自体も平行して高まることである。苦境にあったこの1年の日本は、総じて技術に対しては醒めた眼が向けられていた。技術を扱う者にとって、いまはとても大事な時期ではないだろうか。3月11日を乗り越える作業はこれからが正念場だ。

(*)主催: 大阪府建築士会・大阪府建築士事務所協会・日本建築家協会近畿支部・日本建築協会

佐野吉彦

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