建築から学ぶこと

2022/07/13

No. 827

災害文化を提唱する人―河田惠昭さん

私たちは、ここ10年程にあった大災害で、発生時にどう動くかの知恵はずいぶん身につけたのではないか。一方で、社会が平時から大災害を想定したビジョンができているかは、災害国日本であるにも関わらずまだまだ弱い。災害には地震・火災、河川氾濫・津波があり、強風もある。感染症対応も災害と共通する側面がある。リスクは全方位を意識する必要があるが、行政も研究も担当が独立しているきらいがあった。そこに課題を見出し、災害に向き合う総合的な視点の基盤となる「学」を築きあげたのが河田惠昭さん(*)である。その自叙伝である「災害文化を育てよ、そして大災害に打ち克て」(ミネルヴァ書房2022)はまことに奥行きが深く、豊潤な手ごたえを感じさせるものだった。

河田さんは災害を工学的にとらえるところから出発しながら、諸事象の研究者を横つなぎする共同研究のオーガナイザーとして力を発揮する。そして、国内外の災害の現場においてアクティブな役割を果たした経験を通して、災害がコミュニティーの基盤に大きな影響を及ぼしてしまう実態を重視し、「社会現象としての災害」に着目した。起こった災害は不幸ながら、それは生活文化をうまく組み立て直す起点となる可能性がある。だから、災害の前と後の両面に着目しなければならない。そのような視点から、どの国・どのコミュニティーにおいても「災害文化」の成立が根幹にあるべき、と提言している。実際に、災害対応のプロ育成に加え、若い世代が学校をはじめ、身近な場面で災害の意味をきちんと学べる手立てを講じてきた。

河田さんは、ひとりひとりが自立した災害観を持つことを訴えようとしていると言える。この本は、甘い想定を戒め警鐘を鳴らしつつ、災害を乗り越える人類社会の将来に向けて熱いエールを送っているのではないか。

 

*京大ならびに関大名誉教授、阪神・淡路大震災記念・人と防災未来センター長ほか

佐野吉彦

河田さんは大阪生まれ。街を貫く大川も昔は暴れ川だった

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