建築から学ぶこと

2006/02/15

No. 21

科学と社会を結ぶ

世界科学会議による「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」(1999)のなかに、「一般の人たちが、新たな知識の応用に関する意思決定によりよく参画できるようにするために、(中略)基本的な科学の知的体系(リテラシー)や理性的な能力・技能、そして倫理的価値に対する評価を発展させ拡げることがこれまで以上に必要になっている」とある。科学の適切な発展のためには、優れた専門家の育成だけでなく、専門家の活動を理解して支える層の厚みが必要と、述べているのである。

最近の日本は、先進国の中でも科学リテラシーが低いのだそうだ。これは「知識」の不足でよりも、推測する力をはじめとする「能力」の問題が大きいだろう。それは知的能力の問題ではなく、能力開拓が不足しているように思われる。目の前に起こっている現象をどう分析し判断するかについてのトレーニングが全般に不足しているのではないか。主として高校教育までに課せられた課題である。

その流れと呼応して、東京大学大学院で「科学技術インタープリター養成プログラム」が始まっている。これは、科学技術と社会との間に立って、相互の理解を深める橋渡し役を育てるという趣旨である。日本人の科学リテラシーの低下、自分の分野に閉じこもり社会との接続ができない専門家、専門家と社会を繋ぐ人材の不足といった諸問題を解きほぐす試みと言えようか。このほか各大学でも取り組みが進むだろうが、建築を専攻する学生も積極的に参加してほしいものである。社会といかに関わるかという点では他専攻の学生をリードできると思う。

インタープリターは平易な表現で、明瞭な言葉によって説明することに留まらず、科学技術、専門分野の魅力をアピールする人である。技術者がそうした視点を身に付けることも重要だし、職能としてのインタープリターが社会的に認知されることも重要であろう。ちなみにこれは、プロジェクトマネジメントとは違った役割・能力である。

佐野吉彦

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