建築から学ぶこと

2021/05/26

No. 771

かれらは、建築が持つべき力を信じた

ある時期、ユナイテッド・エアラインズに乗ってシカゴに飛ぶ機会が続いた。このエアラインは、ハブであるオヘア空港に専用ターミナル(1987)があって、特別な存在を占める。ヘルムート・ヤーン(1940-2021)は、それやメトロの空港駅、シカゴに現れた新たなランドマークthe State of Illinois Center(現The James R. Thompson Center、1985)などの設計を手掛けていた。ヤーンの確信と愉悦に満ちた造型は、ミースやSOMが築いたミニマルで切れ味の良いシカゴの建築伝統に、さらに魅力的な世界を展開していて、この建築の都を訪れる楽しみになった。

フィラデルフィアにはTwo Liberty Place1990)があって、この都市のスカイラインに魅力を加える成果を導いたし、ベルリンのSony Center2000)は、統合ドイツの希望を体現する場となった。東京駅周辺でのいくつかの仕事もインパクトがあり、世界各地での大規模建築をまとめてきた力は強靭なものがある。この5月にヤーンは交通事故で亡くなるという不幸に見舞われたが、名声はこれからも残るだろう。

もうひとり、同じ5月に内田祥哉さん(1925-2021)が亡くなった。内田さんは多くの人材を育てたことによって、建築生産研究と建築構法計画における取り組みが、学問としてさらに進化・定着しただけでなく、さまざまな建築カテゴリーにおける質の向上に大いに寄与した。言い換えれば、建築が現実の社会を変えるために必要な条件が整えられ、複合事象をまとめあげるための方法論が構築され、さらにその実践が続いたというわけである。

たとえば超高層ビルの設計・施工プロセスにも、プレファブ住宅の標準化であったり、新たな発注方式の定着や、さらにはBIMの導入といったチャレンジを支える基盤づくりであったりと、その水脈は沃野となった。そう考えると、内田さんもヤーンと同じように、技術に対するポジティブさを持っていたからこそ、人材が人材を生みだす好ましい展開が生まれたのである。おそらく、その時代の課題に立ち向かう力を、内田さんはこれからも示唆し続けるだろう。

佐野吉彦

The James R. Thompson Center <Photo:Primeromundo

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。