建築から学ぶこと

2010/09/22

No. 246

オーケストラ:音楽基盤としての期待

全国各地にはさまざまなプロの管弦楽団、オーケストラが設立されている。日本オーケストラ連盟に加盟している団体で数えると約30で、ざっくり言えば、ロマン派の交響曲を演奏できるプロ組織がこれだけある。実際には、東京・大阪・名古屋に複数のオーケストラがあるなど、地域の偏りがある。芸術を扱う団体は、官・民であろうと、出発点は自発的なものだから、偏りそのものが問題というわけではない。東京交響楽団が催す新潟定期公演のように、ある程度補う工夫は可能である。常時利用する団体がいないのに、各地で文化ホールが作られ続けてきたことは問題だったかもしれないが、それはその町が期待する音楽カテゴリーとのミスマッチがあったからではないか。

そもそもオーケストラだけが音楽ではないわけだし、最近のホールはプロもしくはアマチュアの音楽団体育成に眼を向けていることでわかるように、現有のハコにフィットした自発的で多様な音楽分野が活性化してゆくことになるだろう。一方で、音楽団体は、維持発展に苦労するビジネスモデルである。現実のオーケストラは、客受けのする曲で出番を増やして収益確保を達成する一方で、難曲をこなすことで芸術レベルを研ぐといった成果の見えにくい試みも、収益と別の目標として重要である。高度な目標があるからこそ、プロと言えるからである。

さて、関西フィルハーモニー管弦楽団が設立40年を迎えた。現在はNPO法人格を持ったことから、名実ともに市民が支えるオーケストラという軸足を保持していると言えるだろう。9月にはその節目を記念して、本拠である大阪(いずみホール)で首席指揮者・藤岡幸夫がオーギュスタン・デュメイのバイオリンとともに芳醇な味を編み、東京(サントリーホール)では、来年から音楽監督になるそのデュメイが指揮とバイオリンを操り、明るい音色を響かせていた。もうひとり関西フィルの常任指揮者である、正統的な持ち味の飯守泰次郎を加えた3指揮者では、響きが異なるのが興味深い。

自発性を標榜するオーケストラには、楽団固有の個性だけでなく、こうした、タレントを活かすしっかりとした音楽基盤が期待される。耳の良い聴き手には、その両面で満足を与えなければならないと思う。地域に音楽文化を花開かせるには、時間をかけた努力が必要なのである。

佐野吉彦

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