建築から学ぶこと

2020/11/11

No. 745

2020年秋の記録

2020年の11月は、民意を問うふたつの投票が実施された月だった。ひとつは大阪市による「大阪市廃止・特別区設置住民投票」否決、もうひとつは「米国大統領選挙」(バイデン候補が選出)である。どちらも例年になく投票率が高く、そして僅差での決着となったことが共通している。それぞれの結果について見解は述べないことにするが、予想を越えて真剣に有権者は将来の選択に臨んでいた。

さて、「アメリカのデモクラシー」を著したアレクシ・ド・トクヴィルは、デモクラシーの基礎を形成するのは自社や結社活動、すなわちコミュニティレベルであると結論づけている。19世紀のアメリカを見て、トクヴィルは「人々が自らの地域的課題を自らの力で解決する意欲と能力をもつことを、民主主義の最大の可能性だと考えた」ようである(宇野重規「民主主義とは何か」*)。テレビで見る限り、今回のアメリカの選挙運動は誠に生臭いものだったが、COVID-19流行のもとで生まれた思潮や新たな投票制度のなかで民主主義の実験に取り組んでいたのは興味深い経過である。そこに民主主義の体幹がきちんと備わっていたと信じたい。片や大阪においても、2020年という先行き不安な年に自らの行政制度のありかたを考える機会があったのは、あとで振り返って有効な機会と感じるのではないか。

眼の前にある政治のしくみも都市計画も、民主主義が生み出したものに違いない。そしてそれは時がたてば同じく民主主義がよりよいフレームをつくるだろう。先ほどの本が「民主主義の名の下に発展してきた現実を、それなりにきちんと評価してあげたい、その上で、批判すべきは批判し、それでもなお大切にすべきものは大切にしたい」と述べているように、演説や投票が政治ショーではなく、次への議論の積み上げにつながってゆくステップであることを期待する。

 

* 講談社現代新書2020

佐野吉彦

穏やかに心と心をつなぐ。(ニューヨーク、2003年撮影)

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