建築から学ぶこと

2011/11/02

No. 300

プロフェッショナルへの敬意

ある午後、経済人と公立中学校の教員たちとでディスカッションする機会があった。この学校は学外から講師招聘、地域への公開講座開催など、積極的な取り組みを進めている。この日参加した10人の経済人は5グループに分かれ、私はSさんと一緒に教員のキャリアディベロップメントを取り扱うことになった。どの職業・専門分野にも共通することだが、教員の世界もその範囲のなかでの成長を目指す。いまそれが問い直されるには2つの理由がある。

ひとつは生徒の多様な可能性を見出し成長させるために、広い視野を持った指導が必要となってきたこと。校長・教頭以外はフラットな組織という特性をふまえて全体の底上げをどのようにおこなうかがポイントである。このあたりは部署ローテーションを通じて育成する企業システムは参考になるだろう。もうひとつは、個々の教員の自立的なステップアップが期待されていること。日常の教務のなかでどのように自らの能力を高め、後進の教員をリードしてゆくかは、生き残りを考える組織に共通するテーマである。何かのスキルを身につけることの自信は、そのほかのスキルの開拓する意欲を呼ぶものであり、歳を重ねても繰り返し現れる困難を乗り越える経験が自分ならず周囲に良い刺激をもたらすものだ。

専門分野の成長プログラムには、他分野が介入できないものもある。現代ほど、そうした歴史上つくられてきたプログラムに敬意を払い、お互いのレベルを高めあうことが重要な時代はないだろう。人はもっと自分の天職の喜びと苦労について語るべきであり、人の依って立つ基盤について関心を持つべきなのである。権力をいかに握るとか、いかに敵を設定するかなどというつまらぬ目標が、プロフェッショナルでありつづけることに紛れ込んではならない。

300回を迎えたこの連載も、その視点を忘れずに続けてゆこうと思う。

佐野吉彦

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