建築から学ぶこと

2012/07/18

No. 334

建築と、それを取り巻く文化が生き続けるために

優れた建築計画/デザインというものは存在するが、ただちにそれが社会的に評価の高い建築となるかどうかはわからない。コンサートホールも美術館でも、運営者の継続的努力、登場する芸術家と観衆の反応などが重なりあって、評判が高まってゆく。初動の勢いも不可欠だが、おおよそ10年にわたる積み重ねは続いて重要だ。現実的にその施設ならではの個性あるいは文化が育ってゆかなければ、そしてそれが社会にきちんと共有されていなければ、施設そのものが寿命以前に消滅する危機に陥るであろう。

その点では、カトリック夙川教会は、長い目で見て幸いな歴史をたどったと言える。聖堂は1932年に完工したが、2009年に西宮市から「都市景観形成建築物」、2012年に兵庫県から「景観形成重要建造物」の指定を受けたことで、聖堂建築の文化的価値・地域における価値が広く位置づけられた。戦争やいくつもの災害を乗り越えて受け継がれた教会の活動が、聖堂の内外観の継承という文化的業績となっていると言うべきである。信徒や聖職者の持つ信仰にかかわる意思は大事であるが、教会建築が契機となって、地域社会とも心を通わせあい、また演奏会場としても評価されたことで、教会をめぐるひとつの空気が形づくられてきたことも見逃せない。

その聖堂の耐震改修に携わってみると、この仕事には、その空気をさらに次の世代へとつなぐ使命が宿ることをあらためて認識した。改修の直接的理由とは、施設を時代に則して安全に維持する社会的責任である。半年ほどかけて柱を安定させ、耐震壁を設け、小屋組を補強し、さらに内外壁を塗装してエレベータを設置し、ステンドグラスを修復する工事を重ね、概ね成果にたどり着いた7月、聖堂の使用が再開された。80年目の節目とは、ここに建つ建築とそれにかかわる活動を、一体のものとして継続しようとする「決断の節目」に他ならない。

佐野吉彦

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