建築から学ぶこと

2010/03/10

No. 220

きっかけは街角から

人はどのように働くことで幸せになれるか。社会はそれぞれにある流儀やリズムをうまく受け止めることができるのか。それはつまり、社会とは人をうまく活かすことによってこそ、よりよい姿となるものだ、という立脚点から始まる問いに他ならない。南部靖之さん(パソナグループ代表)が取り組んできたのは、人を動かし、社会を変えるための問題提起を行うことではなかったか。人と会うことに骨惜しみをしない南部さんは、歩きながらさまざまなネットワークをつくる。人と人が繋がることから生まれる可能性を探ってみて、行動にフィードバックする。健全な社会とは彼のようなスタイルが機能する社会のことを指すのであろう。

いつも、南部さんは一歩斜め前を歩き、踏み出しかねている人には、その人なりの歩き方を奨めようとする。歴史のなかで同じ道を選んだ人はいるのだから、と勇気を与え、巧みな人の導き方をする。また、南部さんは誰と誰を出会わせるか、そのための場を印象的に用意するかについて天才的なものがある。私は彼からそのあたりの知恵を吸収したのだが、振り返ると南部さんから始まる長いご縁もあれば、たまたま発想を共有できた同士の水源に南部さんがいたということもよくあった。私の中の南部さんとは、約束などしなくてもどこかの街角で出会っているイメージだ。

ところで、東京駅八重洲北口に移転したパソナの本社は、稲田があり野菜畑があり、収穫も可能な不思議な場所である。パソナが試みるブリッジングの中には、農業とさまざまな人材との結びあわせが含まれている。この本社とは、その行動の基底をなす哲学のショウルームであると言える。ここでは外装の緑化にも取り組んでいるが、環境数値の達成から始まった発想ではない。都会の街角と農の風景を印象深く出会わせているのである。南部さんの問題提起型というスタイルは、ここにも登場してきている。

佐野吉彦

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