建築から学ぶこと

2020/09/09

No. 736

表現は変わるか変わらないか

夏になってから、スポーツもライブも演劇も再開している。それでも会場の収容人数を減らし、十分な離隔を取ってのパフォーマンスだから、見えている景色はいつもとは違う。応援の静かな野球場では、観客が少ない分、ミットに収まる球の音がしっかりと聞こえ、ゲームの質がクリアに感じられる。野球もサッカーも、スポーツ固有の型まで変わるわけではないが、ステージでのプレイヤーは、お互いの距離を取ることで新機軸が現れている。演劇では、力量のある俳優が少人数で演じるチャレンジがあり、音楽ではハーモニーをうまくつくるためのぎりぎりの模索を試みる。

たとえばこの夏、テレマン室内オーケストラは、ベートーベンの1番から4番までの交響曲を2回に分けて演奏したが、弦楽セクションは全員でわずか8人(ヴァイオリン4、ヴィオラ2、チェロとコントラバス各1)でまとめ、精緻な成果を示した。普段から室内編成で活動しているだけのことはある。こうしてみると、COVID19は新しい表現を導き出す契機にはなっている。しかし、劇団四季の吉田智誉樹社長は語っている(*)。やはりコロナと演劇は相性が悪いのです、と。特に四季が目指してきたスタイルは本来ある形でこそ味わえるものである。スターシステムに頼ってこなかった四季は、リスクマネジメント意識が備わっているようで、興業が普通のかたちでできる時期を、入念な準備を重ねて待っている。

表現者の視点はさまざまだ。大事なのは、時代の現実にどう呼応するかより、この局面で自らの力をどのようなかたちで表現するかで、そこに個性とプライドがある。建築では、オフィスの新しいありかたの模索が始まっているが、時代を受身で応ずるのではなく、建築の力が主体的に導き出すべきものであろう。オンライン化に向く流れにどのような落としどころがあるかどうかも、建築の専門家は鍵を握っている。

 

*関西経済同友会におけるオンライン講演9/3

佐野吉彦

静けさと熱さと。/阪神甲子園球場

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