建築から学ぶこと

2016/06/01

No. 525

建築士法とともに歩んだ建築界

日本国憲法第25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と謳われている。日本が戦後の復興に取り組む中で、建築が社会の発展のために果たすべき使命が盛り込まれたのである。その後の昭和25年(1950)制定の建築士法では、第二条の二「建築士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、建築物の質の向上に寄与するように、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない」というくだりが重要である。かくして建築士資格は、建築設計者に不可欠な資格となっただけでなく、日本における建築の専門家の基礎資格としても定着していった。この新法には、昭和30年(1955)に建築事務所の登録が条文に明記され、建築士と建築士事務所を支える法制度がひとまず整えられている。しかしながら、この法律に業務法としての内容が盛り込まれるのは、平成27年(2015)の改正を待たねばならなかった。
そこに至る経緯が戦後の建築界の形成に影響を与えた。戦前に建築士法の制定を目指していた(旧)日本建築士会は建築士法制定を以て使命を終え、同じような名称の、現在の日本建築士会連合会と各地の建築士会が組成されることになる。一方で、建築設計に関わる業にかかわる団体は独立して活動するのがよいとの声が、ここまでの建築設計を支えた建築代理人の勢力にも、建築士法のもとで復興と高度成長を担う人々の中にもあがり、建設省もその方向を支持した。昭和37年(1962)になると、業の確立を目指すために連携する動きが起こり、全国建築士事務所協会連合会(全事連、のちに日事連)が結成された。同時期に建築士法制定の時期にスタートした(旧)日本建築家協会も、建築設計監理業法の設立を模索していたが、専兼問題をめぐってやがて方向を異にした。
平成27年の建築士法改正は建築団体が共同で国に働きかけ成果を得たものである。いつしか戦後は70年を越え、日本は高齢社会となり、グローバル化が進み、多様な発注とストックマネジメントが話題の中心にある。ずいぶん空気は入れ替わり、建築界がこだわるべきポイントも大きく変わった。建築界が連携をより大胆に進めるべき局面にあることは間違いない。

 

〔註〕佐野は「大阪府建築士事務所協会創立期の建築界」(同協会刊「まちなみ」2016/4号)にさらに詳しく書いている。

佐野吉彦

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