建築から学ぶこと

2008/01/23

No. 116

日本のブリ・コラージュ

炭素繊維は、航空機の機体から耐震改修まで、実に幅広く使われている。その世界シェアの70%以上を日本企業3社(東レ、東邦テナックス、三菱レイヨン)が占めているという。これはまさしく日本が誇って良い技術である。その基盤は近代日本を支えた繊維産業・紡糸技術にあり、さらには日本の高度な織りの伝統にも由来する。ここには手先の丹念さと継続があり、炭素繊維は日本らしい技術だと言える。一方でその確立には絶えざる技術革新があった。アクリル繊維を焼成して炭素に変えるプロセスは、現代のチャレンジであり、既成の伝統技術を活用しただけではここまでの成熟はなかった。

おそらく自動車も、光ファイバーも同じなのだと思う。技術が花開くための鍵は、プロセスにかかわる革新が行われるかどうかである。実際には多くの場合、恵まれない状況で知恵を絞る、ありあわせの素材から創り出す作業(ブリ・コラージュ)があらたな展開を生んでいる。それは江戸期の日本が普通にやっていたことであり、むしろそれを楽しんでいたようにも見える(からくりはその精華。落語の「長屋の花見」も例のひとつ)。プロセスの工夫は商品そのものの価値以上に根強い力を発揮する。

ありあわせ作業は、マニュアルに縛られないものだ。そのうえに、アンチ・モダニズムの切り口を宿している。実は、日本はマニュアルに唯々諾々と従うよりも、坪庭やコンビニといった新しいマニュアル的商品を巧みに編み出してきた国だ。そうなると延々とモダニズムの問い直しを続けてきたということができるだろう。今、どの分野もマニュアルに乗るだけでは新しい価値は生まれないことはわかっている。だからこそ、ありあわせ作業の知的可能性に注目すべきであろう。炭素繊維は成功例のひとつだったが、建築の新しい潮流もありあわせ作業から生まれてくる。

佐野吉彦

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