建築から学ぶこと

2019/07/10

No. 679

図書館にある、人と人をつなぐ力

都市ニューヨークがまだマンハッタンの南半分でしかなかった時期、現在の公共図書館(1911年竣工)がある場所(42st.)は貯水池だった。そののちに命の泉は、知の泉に模様替えしたというわけである。この図書館は学術の発展を支えてきただけではない。図書館が束ねる地域分館のネットワークは、人々に生きるための知恵を提供し、生きることの意味を気づかせる役割を担っている。現在全国巡回中の、フレデリック・ワイズマン監督によるドキュメンタリー映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」(2017)は、そのような図書館の活動のエピソードを幅広く紹介するものである。
この図書館は公立施設ではなく、独立した法人が設立主体になっている。市からの活動協賛を受ける一方で、多くを資金調達の努力で賄う必要がある。その事情をふまえてコミュニティーが直面する課題に積極的に関与し、社会に存在価値をアピールする図書館の姿が映画では紹介される。ここで思い及ぶのは、図書館に限らず、一つの機関あるいは建築物の生命は、外部とのいきいきとした関係構築によって得られるという事実である。社会がお互いを理解しあうことから、それぞれの好ましい未来が立ちあらわれる。そのことを語っているようにも感じられる。
映画の中で、作家トニ・モリスンの「図書館は民主主義の柱だ」という言葉が引用されるのは印象深い。その達成はたやすいことではないので、スタッフたちは、日々の任務の中でその本筋を守って奮闘している。いかに人の苦難に手を差し伸べるのか。いかにこの時代を生き抜くリテラシーを提供するのか、真実をどのように理解させるのか。それらの尽力に宿る思いは、単に施設運営のためではなく、人として他者のためにどのように働くかの問題意識から生まれている。図書館は民主主義の学校と言えるだろう。そこから多様性ある社会がしっかりつくられてゆくのだ。

佐野吉彦

ブライアントパーク、ニューヨーク公共図書館の西隣。

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