建築から学ぶこと

2023/08/30

No. 882

今夏にみる社会の「兆し」

2020年春にほぼすべての社会活動に制限がかかり、スポーツやコンサートなどの集客機会も一斉に停止となった。あれから3年ほどを経て、感染対策は維持しつつも、施設収容人数や声出し禁止などは緩和されている。夏の高校野球もそのひとつで、興味深いのは応援のスタイルが停止の歳月の間に少し変化しているところである。コロナ以前の高校生がすでに卒業して連続性が欠如しているからなのか、音量もリズムにもライブコンサートのようなノリが混じっていた。グランドを見れば、丸刈りのチームの減少、5回終了時にクーリングタイムを設定するなどの暑さ対策実施、リーダーシップの方法論の柔軟化などがあり、これらは感染症とは直接関係しないのだが、この3年の間にあった社会の様々な変化の影響が確実に及んでいる。
さらに、実際の人出はかなり回復してきていても、高齢世代がコロナを契機に外出をやめてしまった例もあるから、世代が想像以上に入れ替わっている可能性がある。となると、単純な事業再開では感覚がずれるだろう。それを重要な事象とみれば、より若い世代を惹きつけるにはいいタイミングだと言える。その中で、今夏の<サントリーホール・サマーフェスティバル2023>では、同ホールの「ブルーローズ」(小ホール)が3日間、ガムランの広場になったのは面白い。<ありえるかもしれない、ガムラン>と題して、夜店風に場をしつらえ、昼夜切れ目なくガムラン音楽の多様なありようを展開させる試みである。
その設営に、音楽・美術・建築の専門家がかかわって、コンサートの新たな形態を模索している。そのような専門性の混じり方は重要だろう。一方で大ホールでは通常の演奏会形式でガムランを使った新作の曲が披露されており、一連のチャレンジには<切断>と<連続>の両面の視点が含まれ、そこでの相互反応を期待している。そうした姿勢は、文化の領域を越えて、企業経営においても政治においても示唆に富む。ここへ来て、時代を前に動かす機運が生まれているのではないか。

佐野吉彦

ガムランの広場

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