2017/06/07
No. 576
新聞や放送の能力は衰えてはいないけれども、社会における影響力は、少しばかり低下しているかもしれない。眺めてみれば、いろいろな国の政治家がSNSなどの新しいメディアを活用してきている。これからさき、民意を的確にまとめる主幹事役はいったい誰なのだろうか。そのような流れがあるなかで、国際NGOとして徐々に存在感を高めているヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の取り組みは注目してよい。かれらは35年にわたって、政治のしがらみに捉われることなく、世界各地で起こる人権侵害の動きに対して声を上げてきた。その手法は[動かしようのない事実の検証]に始まり、マスコミやSNSに[その調査結果を発信]し、政府に対しての[政策提言]によって事態を好転させようとしている。政治団体のようにドグマが行動に先行するのではなく、またかけひきによる事態収拾を図ることは本意ではない。悲惨な事態というものは人の目に触れにくいところで起こっているから、それを探り当てる嗅覚と粘り強さはかれらならではのものである。個別の作業を一連のアクションにつなげることもかれらの得手であり、既存のメディアは彼らのアクションのなかで重要な役割を担うこともできる。
社会の基本原則は人権の尊重であり、それはこの20年で著しく法制度の整備が進んできたと言える。そこは政治のリーダーシップであろう(政治的野心はしばしばその対立勢力の主張する政策をないがしろにする傾向がある)。だが、人々に時空にとらわれない共感が存在しない限り、制度整備だけでは安定を欠く。それが一連のアクションの起動力となっている。HRWがつねに持ち続けているこうした問題意識は、建築団体活動にも、まちづくり活動にも適用できる。そもそも、われわれこそ、社会にあるさまざまな不適切な状況を冷静に見極め、解決に導くプロフェッションではないか。