建築から学ぶこと

2007/08/29

No. 96

スケルトン・インフィルが提起するもの

建築の構造躯体と個々の内装・設備を分離して計画した集合住宅を、スケルトン・インフィル(SI)住宅と呼ぶ。構法上の区分においても、不動産所有の両面でも明瞭な方法論である。これが現実に成立するには、居住者が建築の価値や寿命について正しく理解していることが前提となる。理屈は簡単、「SI=長期耐用+自由設計」というものである。小林秀樹氏らの努力により、法律の壁をひとつひとつ乗り越えながら、ここまで来た。今後ますます今後注目を集めることであろう。

そのSI技術に、定期借地権による不動産制度を組み合わせたものが「つくば方式」住宅方法である。最初の30年は居住者が所有、次の30年は地主によるスケルトン賃貸、と時期を区切って契約してゆく。居住者から見れば、良質な住宅を安価で取得できるメリットがある。コーポラティブ住宅として進めるなら、地主にとっては事業のリスクが軽減されるだろう。そこでは、技術の洗練・良好な都市環境の成立・安定的な住まい方の実現という、多様な目標を同時に実現することができる。

つくば方式は2006年12月末までに13棟が完成した。これらは、期限付きの区分所有権という重要な概念の有効性を示したことで、不動産の分野へ問題を提起した。さらに、長期間にわたり良質な建築を存続させるためのモチベーションを生み出したことにより、建築分野への重要な問いかけをおこなった。

こうした取り組みの流れにあって、特記すべき成果が「求道学舎」プロジェクト(文京区本郷)である。元は武田五一(1872-1938)の設計により1926年に完成した寄宿舎が、「つくば方式」によるコーポラティブ住宅として改修された。手掛けた近角真一氏(建築家、1947-)が目指したのは、祖父である宗教家・近角常観(1870-1941)が設立したこの施設の存続活用である。その取り組みの意義を知る協力者(田村誠邦氏ほか)がこの試みをサポートし、そしていま、その価値を理解する居住者によって見事に住まわれている。求道学舎は、すぐれた建築とそれをつくった先達の魂をどのように適切に守るかを示す、先鋭的な例となっている。

佐野吉彦

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