2017/04/26
No. 570
人口流失に悩む自治体にとって、徳島県神山町の成功はまぶしく映る。IT環境を整え、人が集まりやすいシステムをつくり、その受け皿に既存住宅などを充てる。いまやベンチャー企業がオフィスを構える地となり、多くの人材と知恵が神山にもたらされ、次の世代のための好循環を始め、社会動態人口も増加した。その推進には民間(NPO法人・グリーンバレー)の力があり、やがて自治体が動いたのは画期的だ。現在は官民が連動し、それぞれが責任を持ちながら地域を支えているところは、まさに<新しい公共>の発現と言えるだろう。
一方、奈良県天理市に先ごろできた「天理駅前広場CoFuFun」の成果も鮮やかだ。広場に置かれたいくつもの巨大な<器>は、子供たちをはじめ多世代を集め、心と身体を揺さぶり、そこに留める。これは人口の流出を防ぐ自治体としての不退転の戦略だが、公募で選ばれた佐藤オオキさん(nendo)のデザインによる、使い方を利用者に委ねる仕掛けが功を奏した。このまちに楽しい場所と原風景があれば、それはきっと人を呼び戻すことであろう。天理市は服部茂樹さん(graf) をブランド・プロデューサーに位置づけるなど、切れのよい人材を起用している。今後、駅前という<点>をどのように結び付けてゆくだろうか。
これは眼に見えるかたちによる解決だったが、人を郷里に引きつけるにはさまざまな方法がある。福井県大野市が打ち出した「大野へ帰ろう」プロジェクトは、その仕掛けの中心に歌を据えている。あなたの育った「大野へ帰ろう」というストレートな呼びかけは、穏やかな自然を背にして映えている(電通・日下慶太さんプロデュース)。歌を取りまくデザイン処理が美しいことも、説得力あるものだ。日本人が共通に抱く郷里のイメージをうまく使い、幅広い人々の移住と定住策を練っている。どこのまちも、さまざまな手法や人材の連動なくしては生き残れない、ということであろうか。