建築から学ぶこと

2009/03/25

No. 174

災害復興という「学びの機会」

改正建築士法では、大学院の修了者は、1級建築士の受験資格に必要な2年の実務経験を自動的に取得できなくなる。ただし、一定の条件のもとで在学中に実務(インターンシップ)を経験すれば、1年あるいは2年を確保できる、という形に変わった。そこで、各大学院とも工夫してカリキュラムをつくっているけれど、修士論文の傍らでこなすのは大変だし、また実務訓練とするには時間が十分でないところがある。だが少なくとも、在学中の実務経験は自らの方向を見極めるにはいいチャンスにもなるし、せっかく出来た制度はうまく使いたいものだ。

たとえば、災害復興計画へのかかわりは、この制度を効果的に使えるのではないか。私はそう感じる。理由の第1は、建築が確実に必要とされる場面に立ち会えること、第2は学生が時間をたっぷり使えること、である。大規模災害には、緊急支援するステップがあって、次にとりあえず住める状態をつくるステップがあるけれども、そこから先の復興のステップは専門家の想像力が必要とされるはずだ。現地の人々は何を望んでいるか。どのように予算を獲得するのか。どういう他分野の専門家と協働して成果を導くのか。そうした行動を経験者の指導を受けながら携わることは、建築設計の基礎技術と動物的感覚とを育てるように思われる。学生は、国外に出向き、結果の検証をするための時間も割けるわけだし。

一方に政治問題が復興を阻む地域があり、一方に災害がさまざまな対立や課題を解消するきっかけとなることがある。かつての利根川の決壊とは肥沃な土を運ぶものでもあったし、今日のバングラデシュにも、周期的に訪れる洪水をふまえて農作がある。災害と向きあうとは、通念を疑い、本質を掘り下げることである。大学院で取り組むテーマにはふさわしいものではないか。

佐野吉彦

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