建築から学ぶこと

2012/12/27

No. 356

出会いながら、まわりみちをしながら

人はいくつになっても成長するものだろうか。でも、多くの経験から良質な知恵を学んだと見るなら、新しい内閣で再登板した人には期待してよいだろう。それぞれの器が大きくなったかどうかはわからないが、順調に事が運ばなかった人たちがどのようにいぶし銀の切り盛りをするかは興味深い。

それに比べると、若い世代には無数の選択肢がある。年明けまで開催中の建築展・「JAPANESE JUNCTION 3」は、20人の若手が世界各地の大学に留学し、どのような成果を収めたかを示す場。会場であるHAGISOには、取り組んだ設計課題や卒業・修了制作が置かれ、大胆な提案が展示されている。ある者は、まっすぐに海外を目指し、そのまま当地で設計活動に携わっている。また、ある者は海外に出ることで自分を見つめなおしている。芯の強い表現、見知らぬ土地と向きあうことの素朴な喜び。私は個々にどのような事情や葛藤があったかは知らないし、受動的も能動的も混在している。だが少なくとも、出会ったことのインパクトが作品に輝きを与えているように感じた。そこから先は、更なる出会いによって一層の重みが加わるだろう。

ところで、初めて訪れたこの展示スペースは、改装工事の途上にあった。築50年の木造賃貸住宅「萩荘」は、テンポラリーなアートスペース利用の時期を乗り越えて生き延びることとなり、3月には最小文化複合施設HAGISOに生まれ変わるのだという。シャープな黒塗の壁はすでに谷中の街のスケールによくはまっている。設計は宮崎晃吉さん(Torch)。小さな空間は歴史を積み重ねながら、大いなる知恵が交わるところとなった。

さて、新しい年。建築をつくりあげるという結果は、やはりいつもと同じように、多くのまわりみちの果てに現れるにちがいない。そう考えると、迎える年の行く手が明瞭でないことは、逆にさまざまな発見と解決を呼び起こすのではないだろうか。2013年に素直に期待したい。

佐野吉彦

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