建築から学ぶこと

2022/02/16

No. 807

学びの2日間

2月に二つの大学で建築学科の卒業設計を審査する機会を与えられた。初めに京都、一日おいて東京で、最終学年で挑戦した作品の模型を前にしながら説明を聞き講評し、優秀な作品を選ぶ。手順は似たようなものながら、学風も審査員構成も異なるので、私自身にとって刺激的な学びの機会でもあった。前者の審査では、様々な土地から新しいテーマを汲み上げている姿を楽しめた。後者には、既存の風景やビルディングタイプを問い直そうという試みがあり、それらを見ていると、あきらかに学科ごとに受け継がれてきた「趣き」があることはわかった。どちらも共通して、単に美しい建築をつくるだけでは専門家としての使命は達成されないことを理解できているようだ。

さてこの世代は、3年生になった途端にコロナによって行動を封じられる時代に直面している。どちらの卒業設計でも気がついたのは、感染の広がりとそれによって生じた途絶を題材として扱うのではなく、自ら育った地を対象敷地として選択したり、社会課題を投影したりする姿だった。それらは建築を学ぶ<私>の立ち位置を探る上で非常に重要な切り口であり、この時期にこそ得られた知見が宿っているような気がする。見逃せないポイントは、そこで組み立てているロジックが、さまざまな人たちとの対話の上で鍛えられてきたかどうかである。<私>とは変化する存在でもあるのだ。それぞれがこの2年で独りよがりになっていないかは指導教員たちも十分気にかけてきたように感じるが、初めて出会う作品に部外者がコメントを加えることは、このポイントを確認させるうえで、学生には有用ではないかと思うのである。

一方で作品の中には、社会にはまだ現れていないロジックや表現が潜んでいる期待が大きく、審査側にはとても有意義である。まさに全感覚を駆使した2日であった。

佐野吉彦

究めたアイディア、それが出発点となる。-2月12日

アーカイブ

2024年

2023年

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

ご相談などにつきましては、以下よりお問い合わせください。