建築から学ぶこと

2019/10/30

No. 694

どこかで生き延びるアイディア

20年ほど前に住宅メーカーから、自社開発の架構システムをプレファブ住宅以外にも売る方策はないか、との相談を受けたことがある。その時に私は実務者向けの「公募型アイディアコンペ」をやりませんか、と提案した。若い建築家はコンペを重要なチャンスと捉えるから、参加を決めたらカタログなどの資料を徹底的に読みこむだろう。それだけでも商品内容は広く伝わる。コンペでは、審査員に著名な建築評論家や(今は大物の)若手スター建築家に呼びかけ、参加者のモチベーションを高める工夫をした。社会的影響力があったかどうかは別として、少なくとも上位入選者とメーカーとの間には良いビジネス関係が生まれたようだ。
2年程前にその経験が活かされる機会があった。発注者から、大型施設の一部にアートワーク(この場合、アートパネル)を設置したいのだが、地元にいい作家がいないかと問われたので、ここでデザインコンペを起案したのである。今度はその成果は我々の設計内容にフィットしている必要がある。発注者トップからは、選定委員に企業の若手スタッフを加えたいとの指示もあり、選定から据付までのプロセスを担当するコーディネーターと契約して進めた。この経過のメリットは、関係者全員の参画意識を高めることにつながった点である。
振返ってみると、それぞれの意思が明瞭であればあるほど、あるいは状況が切迫しているほど、通常の手順にはない切り口が成果をもたらすことがわかる。そして、予想とは少し異なる展開を呼ぶのがとても面白い。もうひとつの例を挙げれば、かつて建築団体の市民向けイベントで、会場の都合で展示コーナーが3箇所に分散してしまうケースが生じた。そのときに考案したのがスタンプラリーで、会場を巡回してもらった。完結したときの風船のプレゼントは子どもを喜ばせ、親をたくさん引き連れてきた。その成功体験は<生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2019>での設計事務所スタンプラリー(「セッケイロード」)に反映しているのだ。

佐野吉彦

これがスタンプ。

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