建築から学ぶこと

2016/12/21

No. 553

クリスマスの音楽

聖書にはクリスマスの日付は書かれていない。4世紀になって、冬至に近い日に設定されることになったのである。冬至(今年は12月21日)を境に少しずつ日が長くなることから、主の生誕の日とシーズンは、闇に暖かい光が差し込むイメージとともにやってくる。この季節に特に盛んなライトアップやイルミネーションには宗教色はないが、もともとここにはクリスマスのイメージが投影されている。
そのようなわけで、音楽におけるクリスマスは希望のメッセージにあふれている。第二次大戦前夜のウィーンでは、現代音楽の導師とも言うべきシェーンベルク(1874-1951)が、穏やかだが個性的な室内楽「Weihnachtsmusik(クリスマスの音楽)」(1921)を書いている。だが結局のところ、1933年にユダヤ系である彼はロサンゼルスに居を移すことになる。バウハウスを設立した建築家グロピウスがドイツから出たのも同じ時期の1934年である。戦争が終わって、心からの平和を願いつつオネゲル(1892-1955)が書いた「Une Cantate de Noël(クリスマス・カンタータ)」(1952-3)は、様々な言語テクストを使ったハーモニーである。大作曲家とクリスマスの間には戦争の影がある(ベトナム戦争は、サイモンとガーファンクルの「7 O’Clock News / Silent Night」(1966)とジョン・レノンの「Happy Christmas (War is over)」(1971)のなかに複眼的な思考を与えている)。
さて、まもなく終わろうとする2016年も、シリアをはじめ戦争が多くの命を奪った年になった。平和の実現も、ひとりひとりの人権が尊重されるのも、思いのほか長いみちのりだが、希望を忘れてはならないことをクリスマスという日は想い起こさせる。ユダヤ系ドイツ人としてソ連に育ったシュニトケ(1934-98)の短い曲「Stille Nacht(Silent Night)」(1978)にある静かな平和には、重みのあるメッセージがこめられている。

佐野吉彦

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