建築から学ぶこと

2011/03/23

No. 271

震災が投げかけるテーマ

今回の震災は広範囲であるだけでなく、複雑な事象を含み、重要な課題を問いかけている。同じ大災害ながら都市型の阪神・淡路大震災とは異なる状況のなかで、これまで災害と向き合ってきた経験はこれから活かされてゆくことになるだろう。被災地の再生には時間がかかることは必至だが、緊急対策と長期的再生に対しては、関わる人材も知恵も、うまく整理し別けて取り組むことが望ましい。確かに個人のノウハウもNPOや、動員力のある全国団体を積極的に活かすことは、重要な要素であろう。と同時に、地域が自立して取り組む再生を長期的には大切にしなければならない(*)。おそらく、この復興プロセスには、これから先の国のリ・デザインを進めてゆく上で非常に深い意味が含まれている。

事態はまだ進行中ながら、今回は直接被災しなかった側にも不安心理に覆われた。報道やソーシャルメディア、メールは多くの前向きの情報を提供した一方で、それらは確かでない情報、いま控えるべき発言を配信していたりしていた。リスクマネジメントのありかた、情報化社会の課題も露になったのである。とりわけ、阪神・淡路大震災の時期と比べると、海外と情報を共有しあうスピードは飛躍的に速くなった。発生以来、私は多くの知友に励まされて温もりを感じた一方で、不安はいくつもの国に伝播していた。まずは、日本の信頼性をどのように国内外に開示するかについて、きちんと考えてみる局面ではないか。そして、国際的な関心は、日本がどのように再生してゆくかにも向けられている。かれらはこの災害を他人事ではないと思っており、したがってこの震災を国際的な連携のもとに取り組み読み解くことも、次の災害に向き合うときにおおいに寄与するものだ。

こうした課題群に対し、建築の専門家が果たすべきミッションとは何であろうか。必要なのは初期段階の緊急技術的支援だけでなく、既存技術・概念を問い直してみる作業、技術をただしく誠実に扱う姿勢の保持、ということになるだろう。こういうときこそ、前向きでありたい。

佐野吉彦

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