2006/12/13
No. 62
建築設計を専攻する大学院生を相手に、教壇に立つ機会を得てから今年度で3年目。学生に対して建築企画演習というのが私の分担である。基本的には11回通うことにして、講義と演習を組み合わせて進めてきた。今年の出番はひとまず終え、まとめの報告を書く時期である。内容として、(1)建築を企画するとは何か、建築主と建築家とはどういう関係があるかを解きあかすこと (2)各自、建築をひとつ選んで<建築主の望むものをかたちによってどう達成したか>を分析すること (3)実際の建築や現場などで建築主と接し、さらに理解を深めること (4)候補の中からひとつの企業を選び、その企業の目指すものを分析し、その本社ビルを設計すること、この4つの流れを組みあわせることを中心とした。学生がデザインの修練を行なうことは当然のことであるが、設計とは何をする仕事であるかを考察することも重要だ。私は実務の側から大学に来ているので、現実に立脚した話をすることになる。あまり学生の夢を潰してはいけないが、大学院生なら夢だけでもないことも知っておいてよいだろうと考えたのだ。
学生には、建築主の存在が見えにくい。それでもこの世に建築主がいるからこそ、建築は生まれる。まず、この難儀な相手のことを深く知ったうえで彼らの期待に応える建築をつくるか、あえてそこに異なる解答を示すか、知的な作戦行動が必要なのである。私はそういう真っ当な話をしながら、一方で学生の目の付けどころの多様性を味わっている。とりわけ(4)の設計課題では、企業が若者からどういうイメージで捉えられているのかを知ることができ、実に興味深い。何やかんやで私は大学に勉強するために通っているようなのだ。
ところで、気楽なのは教室に教壇がないこと。そもそもエラそうな演壇は私には合わないし、そもそも、設計の議論をするならフラットのほうがいいのである。