建築から学ぶこと

2020/10/14

No. 741

鳥の歌、風のそよぎ

フランスの作曲家・オリヴィエ・メシアン(1908-92)の作品には、カトリックの信仰との結びつきがあり、神秘的な響きがベースになっている。このメシアンは自然の美しさや日本の俳諧の世界にも関心を持った人で、抽象的・構築的なシンフォニーというより、多様なタッチの作品を連ねた長編詩という趣があらわれる。サントリーホールにおける「峡谷から星たちへ」では、壮麗な峡谷の景観が望め、鳥のさえずりが飛び交い、風のそよぎが奏でられるというものだ(106日、鈴木優人指揮・読売日本交響楽団+児玉桃のピアノ)。私はこの曲を初めて聞いたが、その美しさと精妙さを言葉に置き換えるのは難しい。

その次の日、京都の南禅寺の塔頭のひとつで、ささやかな竣工法要が催された。耐震改修が整ったのである。はじめに住職が法要で祈る2つの目的を簡潔に説明し、3人の僧による読経が続いた。静かな秋の昼どきを東山の緑が包み、鳥がさあっと空を横切る。そうして風は御堂を抜けてゆく。経の細かいところは追えないが、木魚の安定したリズムが声の展開を支え続ける。その途中で、メシアンが表現しようとしたのはこういうことなのではと思った。見えない聖なるものと、目の前にある事物が重なりあい、意味が生じるところはカトリックも臨済宗も変わらないのだろう。きっと、宗教として重要なのは、そこに自分がどう関わるかである。

メシアンが作曲に際してイメージしたのが米・ユタ州のブライスキャニオンの光景だという。それはあらゆる地上の風景を超えているが、優美な楽園のようでもない。だからこそ作曲家のイマジネーションを刺激している。一方で臨済宗の空間に在って祈るのは現生の利益ではないけれど、100年続いてきた御堂のさらなる永続を願うことはしている。自然の歴史も長いが、人の営みの歴史も長いのである。

佐野吉彦

読売日響は第49回サントリー音楽賞を受賞。

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